企業の明日を拓くための”成果を生み出す”DXの推進。―IT導入の進め方を考えるー
パソコンやスマートフォンの他、IoTやAIなど、ITは企業の売上拡大、費用削減に効果を生み出すツールです。「自社の事業に導入したい」と検討しながら、足踏みされている方が多いのではないでしょうか?
また、デジタル技術を使って企業を変革したいと考える経営者も増えています。
ここでは、中小企業のIT導入の進め方について解説します。
一般的に、中小企業におけるIT導入の課題と言われているのが、以下の3つです。
・コストが負担できない
・導入の効果が分からない、評価できない
・従業員がITを使いこなせない(2018年度版中小企業白書)
つまり、費用対効果と人材面の2点が重要課題になっていることが分かります。
では、一つずつ見ていきましょう。
費用対効果について
(1)自社の現状を見極め、それに適したIT導入を考える
「ITの費用対効果が分からない」という声をよく耳にします。これは、機器や設備の導入に比べ、動いている様子が見えないうえ、何かを生み出していると感じないため、効果がわかりにくいのでしょう。
例えば、製造業で生産設備を導入する際、「鉄などの鋼材を部品に加工したい」という場合はマシニングセンターを導入しますし、「加工した部品や材料の運搬を楽にしたい」という場合はベルトコンベアを、また「重いものを上下左右に移動させたい」という場合ならフォークリフトを購入します。
しかしITの場合「生産管理システムを導入したい」や「顧客管理システムを導入したい」のように、「目的」より「導入物」を先にイメージすることが多いのではないでしょうか?もちろん、きちんとした理由があればよいのですが、「他社が導入しているから」「今まで手作業だったから」という漠然とした理由で導入する企業も少なくありません。
他社の成功事例を、自社に活用しようと考えるのでしょうが、他社の事例がそのまま御社に当てはまるとは限りません。自社の設備の大きさ、加工能力を十分考慮しながら検討しましょう。
(2)問題や課題を明確にする
導入効果を高める上で最も大事なことは、導入前に「どのような問題点や課題があるか」を把握し「最終的にどんな目標を達成したいのか」を考えることです。
以下に例をあげて説明します。
ある製造工場では、部品加工できる技術者が10名いるにもかかわらず、難しい加工や急ぎの案件は、技術力が高くスピードが速い高齢の熟練工に任せっきりでした。またこの熟練工は「技術は見て盗め」「指導は厳しく」といった昔気質なタイプで、若手が育たず、さらに熟練工へ作業が集中するという問題を抱えていました。
ここで大切なのは、問題点を明確にすることです。そして、まず「何を解決するか」を決めます。「どうやって解決するか」は後にしてください。
この例では、以下のように問題点を明確にして、「加工作業の平準化」を目的に、「熟練工から若手へ技術継承が進む仕組みを考える」という目標を立てました。
問題点:多くの加工作業が、高齢の熟練工に集中している。
目的:加工作業の平準化
目標:熟練工から若手への技術継承が進む仕組みの構築
(3)経営的な視点から考える
このように導入目的や目標を見つける際、重視すべきことは「経営的な視点」です。企業の将来に何が大切か整理するために、以下の「戦略マップ」を使って考えます。
この「戦略マップ」は、財務の視点、顧客の視点、業務プロセス(内部業務プロセス)の視点、成長と学習の視点の”4つ視点”からその因果関係を表します。
多くは経営課題を見つけたり、そのための解決策を整理したりするために用いられますが、私は、IT導入の際も、いかに活用し、導入によって何が期待できるか、解決すべき点が明確化できると考えています。
(4)課題や戦略目標に優先順位をつける
IT導入の課題や戦略目標が整理できたら、次にそれぞれをフォーカスし、解決によるインパクトを考えます。インパクトとは、例えば「売上が上がる」「新しいビジネスモデルができる」「今まで使っていた大きな費用を削減できる」など。その大きさによって「大」「中」「小」とランク付けします。
さらにもう一つ、時間的な観点から「緊急」「急ぎ」「後回し」とランクをつけていきます。どちらのランクづけも、部分最適ではなく全体最適を意識してください。
このランクづけができれば、自ずと優先順位が見えてきます。インパクトと時間的な観点の2軸で考え、「緊急」かつインパクトが「大」のものから取りかかれば良いのです。もちろん費用的な観点も要りますが、かけられる費用がないからと言って、「緊急」かつインパクト「大」の課題を解決できなければ、企業全体の課題解決が遠のいてしまいます。
あくまで軸となるのは、インパクトと時間的な観点なのです。
(5)経営課題を明確にした際に気をつけること
①真因特定
ただ、ここで気を付けないといけないのが、「何をやりたいのか」と「どうすればできるのか」を混乱させないこと。そのためには、経営課題の原因を構造化し、真因特定して解決策の優先順位をつける必要があります。
真因を特定する方法としては、古典的ですが「なぜ?」を5回繰り返す「なぜなぜ分析」が一般的です。
IT導入の場合、真因がわかっても、解決する手段や取り組みたいことなど、考える切り口が多数存在するため、問題を深く掘り下げ、切り口ごとに解決策を考えます。
では、小型充填機のメーカーを例にお話ししましょう。この企業は、「ホームページの問い合わせによる見込み客を増やしたい」と、自社製品の説明動画をホームページに掲載することにしました。
この際、動画の撮影は制作会社に任せることができますが、他にも、
「ユーザーに、当社のホームページを検索してもらうためキーワードは?」
「そのキーワードを一般的に広めるには?」
「見てほしい動画ページをダイレクトに検索してくれる?」
「検索後、問い合わせページへすぐにジャンプできる?」
「問い合わせ後、後継続的にその見込み客と繋がっておくには?」
など、たくさんの不安が出てきます。
ホームページに動画を追加したからと言って、課題が解決するわけではないのです。
小型充填機は、お客様が新製品を作り、容器やパウチに充填したい時に求められる製品。お客様起点で発注が始まるため、折を見て連絡し、その悩みを解決するようアプローチしなければなりません。
例えば、春に「そろそろイチゴの季節ですね。イチゴを絞ったジュースを瓶に詰めるなら、充填機はいかがですか?」とメールを送るなど、自社製品を思い出してもらえるようアプローチします。
また、問い合わせを受けた際、それに応じる人材がいなければ対応できません。この企業では、当初、担当者がおらず新たに配置したのですが、本人の努力もあって、問い合わせ数やメディア掲載数を順調に増やすことができました。
この事例のポイントは、ITによる解決策が見つかった後、担当者の必要性に気づいたこと。システム導入だけでなくスタッフを増員する組織的な改善が成功の要因です。
②業務で絞る
それともう一つ、意識しておきたいのが「業務で絞る」こと。なお、この「業務」とは、営業部、総務部のような「部門」ではなく、「機能」で括るということを表します。
例えば、「受注業務=営業部」と考えがちですが、営業部が受注し、それを庶務部が受注伝票に転記することもありますし、リピート受注があれば、社内にいる業務部が受注伝票を書くことも。「受注業務」は、営業部、庶務部、業務部が連携して成なっていることがわかります。
つまり、取り組みたい事柄に対し、情報のインプットとアウトプットに関わる部門はどこか、それぞれどのように処理されているかを解き明かすわけです。
これが、「部門」で考えてしまうと、現在の業務を前提に考えるため、より生産性の高い機能を考えなくなってしまうのです。IT導入の際は、現状の業務内容を一旦整理し、理想的な流れを考えながら検討することを心がけましょう。
人材面について
さて、続いて人材面です。メンバーの選出に関するポイントは、以下の通りです。
①現場を知るメンバーを入れる
IT導入だからと言って、ITに詳しい人ばかり集める必要はありません。実際の業務を改善するのですから、普段から業務に従事し、イレギュラーな事態をたくさん経験している人に参加してもらった方が効果的です。
②部署や専門知識の違うメンバーを入れる
凝り固まった視点では、真に有効な改善はできません。異なる分野のメンバーを選び、さまざまな意見を出しましょう。
③職場内でミッションとして周知する
社長が会議に参加し、重要なプロジェクトあるということを社内に周知させてください。参加メンバーにとっても、社長から見られることがモチベーションアップにつながり、積極性が増します。
④評価を予め明らかにしておく
こういった会議は、ともすると「ここが困っている」「ここができない」と問題点ばかり挙がることも。それよりは、改善によって「自分たちが会社の売上に貢献できるか」「働きやすくなるか」という考え方を持つことを示しておきましょう。
⑤ポジティブな考え方に導く
世界中でIT化が進む昨今、なかにはITによる人材削減を懸念する従業員が居ないとは言い切れません。社員がより快適に働くためのIT導入であること、変化しなければ会社は生き残れないことなど、経営者自らが重要性を語りポジティブな考え方に導きましょう。
ITはやみくもに導入しても効果を発揮しません。自社の現在の状況を見極め、今後の方向性を照らし合わせながら社内全体で取り組んでいくことが肝心。正しい順序で進めれば、非常に大きな効果を発揮します。