洋菓子や食パンなどの製造販売を手がけ、直営店も運営するA社 。従業員数約20名(うち正社員6名)、年間売上高1億5,000万円という規模ながら 、経営層のITリテラシーが非常に高く、現場のパート・アルバイトスタッフも含めて柔軟に情報共有が行われている、活気ある企業です 。
そんなA社を引っ張る社長は、自らExcelで管理ツールを開発してしまうほどの高いITスキルを持っていました 。実際、そのツールによって利益率を約10%向上させるという目覚ましい成果を上げていたのです 。
しかし、会社が成長するにつれて、その「優秀すぎる社長の存在」そのものが、組織の次なる成長を阻む壁となって現れました 。
今回は、A社が「社長個人のスキルへの依存」を脱却し、外部の手を借りることで持続可能な経営基盤を築き上げた、一風変わったDX(デジタルトランスフォーメーション)の物語をご紹介します 。

利益率10%向上の裏に隠れていた「3つの限界」
社長が自作したExcelツールは確かに強力でしたが、運用の規模が大きくなるにつれて、現場ではいくつかの深刻な課題が浮き彫りになってきました 。
1. 属人的な管理体制と拡張性の限界
データ入力やシステムのちょっとした改修作業がすべて社長個人に集中していました 。そのため、将来的に取り扱い品目が増えたり、組織が拡大したりしたときに、これ以上システムを拡張することが難しいという「持続可能性」の課題に直面していました 。
2. インフラの老朽化とシステム間の分断
社内で使用していたデータ保存先(NAS)は、導入から10年以上が経過して老朽化が進んでいました 。いつハードウェアが故障してデータが吹き飛んでもおかしくないリスクを抱えていたのです 。また、せっかくの在庫管理や売上報告のデータが、既存の会計・販売ソフトと連携しておらず、二重入力や転記作業という無駄な手間が発生していました 。
3. 販売戦略のデジタルシフト遅れ
これまでは百貨店の催事など「対面販売」を主力としていましたが、近年はECサイトや直営店の強化など、販路の多角化を進めていました 。しかし、重要な武器であるはずのSNS運用は現場スタッフに一任されており、売上拡大に向けた戦略的な情報発信や、Web上の導線設計が十分になされていない状態でした 。
「自分がシステムを作り続けるのには限界がある。経営者として、もっと本来の戦略立案に時間を使うべきではないか?」
そう考えた社長は、ある大きな決断をします 。それは、「自分でシステムを作る(内製化する)のをあえてやめる」ということでした 。
外部ベンダーを活用した「持続可能な仕組み」への刷新
A社が取り組んだ改革は、社長の頭の中にあった仕組みを「組織の仕組み」へと昇華させることでした 。当社はここで、「デジタル化」と「非デジタル(運用ルール)」の双方からアプローチを行うように助言し、以下の2点について支援を行いました。
① デジタル化による解決策:Webシステム化と現場の環境刷新
- 簡易Webシステムの構築 従来のExcel管理から、PHPとMySQLを用いたWebシステムへと移行しました 。これにより、複数人が同時にアクセスしても動作が重くならず、将来の品目増加にも柔軟に対応できる基盤が整いました 。
- データ連携の自動化とスモールスタート 新システムと既存の販売ソフト、会計ソフトの3つのデータを段階的に連携させていきました 。これにより、面倒な二重入力の手間が削減され、経営数値をリアルタイムに把握できるようになりました 。
- ハードウェア環境の刷新と現場へのタブレット配備 10年超の老朽化したNASを最新機器に交換し、データ消失リスクを回避 。さらに、工場(1階・2階)や店舗の現場にiPadを配備し、その場でリアルタイムに実績入力や情報確認ができるようにしました 。
② 非デジタルによる解決策:社長のリソース解放と運用の標準化
- あえて「内製化」を抑制する 社長は自分でノーコードツール等を使ってシステムを内製することを断念しました 。あえて外部のベンダーに開発や保守を委託することで、経営者が本来注力すべき「直営店の戦略立案」や「販促の強化」に充てる時間を生み出したのです 。
- 販促スキームの再構築とガイドライン化 現場任せになっていたSNS発信について、その方向性や顧客の導線を整理し、スタッフが迷わずに運用できるようなガイドラインを策定しました 。
経営者が真似したい、リソースを最大化する「3つの知恵」
A社の事例は、「ITに強い経営者」だからこそ陥りがちな罠を回避し、組織を一段上のステージへ引き上げるための素晴らしいヒントに満ちています。
1. 「自分でできること」をあえて他人に委ねる勇気
社長のITスキルが高い企業ほど、何でも自社で作り込んでしまいがちです。しかし、社長の時間は有限です。A社の社長が内製化を諦め、外部委託を選択したことは、経営リソースの配分として極めて合理的で、英断だったと言えます 。
2. 20年来の旧知のベンダーとの信頼関係を活用
新しいシステムを開発する際、A社は20年以上の付き合いがある信頼できる外部ベンダーへ依頼しました 。既存のExcelの仕様やA社の業務を深く理解しているパートナーだからこそ、仕様のズレを防ぎ、予算内に収まる最適な規模での開発が可能となったのです 。
3. 一気に完璧を求めない「段階的移行」
システム同士の連携において、最初からすべての自動化を目指すのではなく、まずは主要なソフト間の連携から着手するなど、現場の負担を考慮したスモールスタートを切りました 。この現実的なアプローチが、システムを確実に社内に定着させる鍵となっています 。
まとめ:属人化を脱し、攻めの経営へ
大好きなExcelでのシステム作りを手放し、外部と手を組むことで「組織的なデータ管理」へと舵を切ったA社 。 インフラの不安を解消し、データ消失リスクを先回りして回避(BCP対策)した上で、現場へのタブレット配備によるリアルタイムな情報共有体制を確立しました 。
社長が自由になった時間を「ECサイトやSNSを駆使した多角的な販促戦略」へと一気に投入していくことで、実店舗とデジタルが融合した新しい強みが生まれつつあります 。
「自分が頑張ればなんとかなる」
そんな熱意ある経営者やリーダーの方こそ、一歩引いて「仕組み化」を外部に委ねることで、本当にやるべき「攻めの経営」に集中できるのではないでしょうか。
今回の事例はいかがでしたでしょうか?
「社内システムが誰か一人のスキルに依存してしまっている」「経営者のリソースの使い方の参考になった」「もっと詳細を知りたい」という方は、お問い合わせフォームからお知らせください。